肝臓の疾患
  昭和大学江東豊洲病院での肝臓疾患は肝臓学会指導医1名、専門医3名を含む内科チームと肝胆膵外科学会高度技能指導医1名を含む外科チームとタッグを組んで患者さんにベストな医療を提供します。

1)ウイルス性肝炎
 C型慢性肝炎ではDAA (direct acting antiviral) 製剤によるインターフェロンフリー療法の市販後から3年が経過し、新薬が毎年のように使用可能になっており、難治例である1型高ウイルス量患者や、以前のインターフェロン療法で無効だった患者についても経口薬のみで高い奏功率が得られています(表1 参照)。更にこれまで副作用のために治療できなかった高齢者や合併症を持つ患者(肝硬変患者、心疾患患者、腎機能低下患者、透析者など)も積極的に治療が行えるようになりました。今では80才以上の高齢者にも治療を安全に治療を行い、ウイルス排除(SVR)が得られております(図1, 2)。
 B型慢性肝炎患者についてもペグインターフェロン療法、核酸アナログ療法を中心に抗ウイルス療法を多数経験してきた医師が診療にあたります。最近、免疫抑制療法を行っている自己免疫、リウマチ関連疾患の患者さんなどで、HBV既感染者やキャリアーの方は重症の肝炎を引き起こすHBV再活性化の危険が提唱されています。こういった患者さんの管理のお手伝いもさせて頂きますので気軽にご紹介下さい。







2)自己免疫性肝疾患・代謝性肝疾患・非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
 ウイルス肝炎以外にも日常診療では成因不明の肝障害をもつ患者さんが多数います。我々はこれまで、成因不明肝障害患者から自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス(図3参照)、ウイルソン病、肝アミロイドーシス、NAFLD、NASH(図4)、薬物性肝障害などを診断し、治療してきました。ウイルス肝炎以外でも成因不明の肝障害患者などご紹介下さい。成因不明肝障害や肝腫瘍の診断には肝生検による肝組織診断が不可欠です。当院では金曜日午後に1泊入院での肝生検検査を行っています。



3)肝硬変と合併症(胃・食道静脈瘤、腹水、肝性脳症)
 肝硬変とはウイルス性肝炎等による慢性的な炎症によってできた肝臓の傷を修復するときにできる線維組織が肝臓全体に拡がった状態のことです。肉眼的には肝臓が小さくなり、全体が凸凹して石のように硬くなります。肝生検の組織を顕微鏡で見ると肝臓の細胞が線維組織によって周囲を取り囲まれている様子が観察できます。肝硬変になると肝臓の機能が著しく低下してしまうため、腹水や食道静脈瘤、肝性脳症や黄疸等の様々な合併症が発症します。
 肝硬変によって肝臓が硬くなると、大きな血管である門脈の血圧が上昇します。この門脈圧が亢進すると食道や胃に静脈瘤ができる為、治療が必要になります。食道静脈瘤に対する治療として食道静脈瘤硬化療法(EIS)(図5参照)、食道静脈瘤結紮術(EVL)などの内視鏡治療を行っています。胃静脈瘤に対して、血行動態を判断し放射線科医と相談し、バルーン閉塞下逆行性経静脈塞栓術(B-RTO)を行うこともできます。
 肝硬変になると必要なタンパク質が作れなくなったり、腎臓への血液の流れが悪くなるためお腹に水が溜まったり、むくみが出てきます。このような腹水の治療としては、まず溜まった水を尿として排出させる利尿剤の投与が中心となります。当院では新規薬剤を含めた複数の利尿剤を組み合わせることにより、効果的な腹水治療を目指しています。利尿剤などの薬による治療が困難な難治性の腹水に対しては腹水再静注療法、腹水静脈シャント(PVシャント)等の処置を必要とする治療も行っています。
 肝硬変では肝臓での老廃物の処理が悪くなることや、身体の中のアミノ酸のバランスが崩れることによって脳の働きが低下してしまうことがあり、これを肝性脳症と呼びます。肝性脳症の治療は主にお薬による予防的な治療を行います。


4)肝癌
 当消化器センターでは肝臓内科医と肝臓外科医が同一チームを構成し、患者にベストな治療法を提供できる体制をとっています。また、IVR治療を行う放射線科とも連携し、肝癌の治療ガイドライン(図6 参照)を遵守し、かつ肝癌治療の根治性と患者への低侵襲性の両者を実現する治療を目指しております。内科的治療であるラジオ波焼灼療法(図7 参照)、薬剤溶出性ビーズなどを用いた肝動脈化学塞栓療法(TACE)(図8 参照)、進行肝癌に対するソラフェニブによる全身化学療法、また肝動脈への動注化学療法、更に外科的治療では根治性を追求したこれまでの系統的肝切除に加え、個々の患者、また病変によってはより低侵襲性な腹腔鏡下肝切除も行っています。










肝臓関連検査、治療

1)肝生検・肝腫瘍生検
 肝臓は腹部右上に位置する錐状の臓器です。肝(肝腫瘍)生検では、胸郭または腹壁を貫通させて肝臓まで針を刺し、検査用の標本を採取します。

【目的】
 肝生検は、癌、感染症(C型肝炎、B型肝炎)、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変症などの肝疾患の診断や病気の進行度を調べるのに必要です。また、原因不明の肝障害の原因を調べるうえで役立ちます。

【検査方法】
 検査当日の午前中に入院していただきます。肝生検前に、患者に鎮静剤および鎮痛剤を注射します。患者は、あおむけに横たわり、右手を頭の下に置きます。検査中はできる限りじっとして、この姿勢を保ちます。検査時間は30分程度です。肝臓を超音波で確認し、生検針を穿刺すべき個所を決定します。皮膚を消毒し、局所麻酔を注射し、わずかに切開してから生検針を穿刺します。生検用標本が採取される間は、指示に従って息を止めます。こうすると、肺への穿孔や、肝臓の裂傷などの危険性が低くなります。生検針の抜き差しは迅速に行います。切開個所を圧迫して止血し、テープで固定します。肝生検前8時間は飲食できません。検査後3時間はベッド上での安静が必要です。

【検査の際に感じること】
 麻酔針が刺さり麻酔が注射されるときに刺痛がします。生検針が使用されるときは、体の奥が圧迫されるような鈍痛がする場合があります。この痛みを肩に感じる場合もあります。

【検査に伴う危険】
 肝生検に伴う最も重大なリスクは、内出血です。虚脱肺が生じる危険性および胆のうまたは腎臓を損傷する危険性があります。

2)ラジオ波焼灼療法(RFA)
【治療の目的】
 RFAは、肝臓癌(肝細胞癌、転移性肝癌)を壊死させるための治療の一つです。
腫瘍(=肝臓癌)に直径1.5ミリの電極針を穿刺し、ラジオ波を流すことにより、針周囲に熱を発生させて、腫瘍を凝固壊死させます。
 1995年頃に欧米で開発され、2004年4月に日本でも保険適用手術として認められ、肝臓癌に対する標準的な治療として位置づけられています。
 なお、ラジオ波とは、周波数約450キロヘルツの高周波のことで、他の医療機器(電気メスなど)に使用される高周波と同じものです。

【治療の内容と注意事項】
治療前日までの注意事項
1) 内服薬について
 血を固まりにくくする薬や血をさらさらにする薬を内服している場合は、出血を予防するために、治療前に休薬する必要があります。
2)血小板数低下および凝固能低下がある場合の輸血の必要性
 治療に伴う出血の危険性を低下させるため、術前の血液検査において血小板数が5万/mm3未満の場合や、凝固能が低下している(プロトロンビン活性50%未満)場合は治療当日に輸血を行います。

治療当日の流れ
1) 治療前から点滴を開始します。胃の中に食物が入っていない方がより安全に治療が行えるため、午前治療の場合は朝食止め、午後治療の場合は昼食止めになります。水を少量飲むのは結構です。内服薬については個別に指示致します。
2) 治療室に入ったら上半身を脱ぎ、治療台に仰向けになって頂きます。また,両側の太ももに対極板を貼り付けます。その後、穿刺部の皮膚の消毒をします。
3) 治療中、血圧計と酸素飽和度モニターを装着し、随時バイタルサインを確認します。適宜、降圧剤の投与を行ったり、酸素を吸引して頂くことがあります。
4) 鎮痛剤を点滴から投与します。なお全身麻酔とは異なり、意識は保たれます。
5) 超音波で腫瘍(=肝臓癌)の位置を確認し、穿刺部の局所麻酔を行います。
6) 診断目的で腫瘍生検をする場合は、超音波で観察しながら、生検針を腫瘍に穿刺し、組織を採ります。
7) さて、いよいよ治療に入ります。CTなどを参考に、超音波で観察しながら、電極針を腫瘍に穿刺し、位置を再確認して、ラジオ波を発生させます。ラジオ波により、針の周囲の組織に熱を発生させ、腫瘍を凝固壊死させます。このとき、みぞおちや、右の肩に痛みを感じることがあります。痛みの程度によっては、鎮痛剤を追加投与します。1回の治療にかかる時間は約6~12分間で、直径2~3cmの球状の範囲が治療されます。腫瘍の大きさや数によっては電極を何回かに分けて挿入し焼灼します。
8) 治療全体にかかる時間は、腫瘍の数や部位、超音波での見えやすさ等により異なります。通常30分から2時間程度です。

治療後について
1) 術後4時間は絶対安静(上向き、寝返り不可、トイレは尿器を使用します)、絶飲食(2時間後から少量の飲水は可能)です。
2) 術後4時間後から翌朝までは、床上安静(横向き可、寝返り可、トイレ歩行可)、飲水のみ可(食事は許可のある方のみに限ります)となります。
3) 術後、発熱や痛み、吐き気などの症状が起こる場合があります。この症状は約半数の患者さまにみられます。臨機応変に解熱剤や鎮痛剤などで対応させて頂きます。
4) RFAにより肝臓癌が十分に治療されたかどうかは、治療翌日以降に行う造影剤を用いたCTで評価します。評価の結果、追加治療が必要な場合は、発熱などの全身状態が改善次第、再度RFAを行います。腫瘍の大きさや個数、部位によっては2回以上の回数を要する場合があります、適宜、造影CTで評価し、肝臓癌が十分に治療されるまで、RFAを繰り返します。ただし造影剤アレルギーのある方には、造影CTは行なえませんので、他の方法で評価します。
5) 出血等の偶発症が何日か経過してから起こることもあるため、退院は最短でも治療後3日目以降となります。退院後も術後2週間は旅行や激しい運動などを避けていただいております。

【ラジオ波焼灼療法の偶発症について】
 治療に関連し偶発症が発生し、これに対する治療が必要になることがあります。重篤な副作用には,腹腔内・胸腔内・胆道・被膜下出血、肝不全、肝膿瘍、消化管穿孔などがあります。他施設からの報告では,重篤な偶発症は7.9~8.9%に認められ,死亡例も報告されております。

【偶発症発生時の対応】
 万が一、偶発症が生じた際には、最善の処置・治療を行います。状態によっては偶発症の治療のために緊急の処置や外科的手術が必要になったり、入院期間が2-3ヶ月と長期にわたったりする可能性があります。

【治療後の再発の可能性と定期的経過観察の必要性について】
 肝細胞癌は非常に再発率の高い腫瘍です。手術やRFA等で腫瘍を完全に除去しても約80%の患者では5年以内に再発が見られます。したがって、治療後も定期的に受診し、3~4ヵ月毎に腹部超音波やCTを中心とした検査を行い、新しい病変がないかどうかを調べる必要があります。
肝細胞癌の治療は著しい進歩を遂げています。希望を失わず、積極的に治療を受けて下さい。