胃食道逆流症(逆流性食道炎など)に対する新しい内視鏡治療(ARMSアームス)

・ 食事の欧米化に伴い逆流性食道炎(胸焼けや苦い胃液ののどへの逆流など)が急速に増加しています。逆流性食道炎は胃食道逆流症の1つです。
・ 逆流性食道炎に代表される胃食道逆流症の第一選択の治療は薬物療法(プロトンポンプ阻害薬など)です。この薬の治療が有効であれば大変良いのですが、無効な場合、これまでは外科手術(腹腔鏡下Nissen手術)をお勧めしてきました。
・ しかしながら患者さんは外科手術を好みません。私たちはこの逆流を防止する手術を、体表にメスを入れることなく、内視鏡的に行う方法を模索してまいりました。そしてセンター長の井上教授がたどり着いた完成型がARMSと呼んでいる治療法です。ARMSとはAnti-reflux mucosectomy(逆流防止粘膜切除術)の略語です。
・ ARMSとは、「逆流防止のための粘膜切除術(anti-reflux mucosectomy)」の略です。胃食道逆流症では、噴門(食道が胃に入るところ)が緩んでいることがほとんどです。その緩んだ噴門部の粘膜を粘膜切除術によって切除して、内視鏡的に噴門形成術をおこないます。

ARMS_内視鏡画像
 左側は治療前の噴門部を胃から見上げたところですが、噴門(食道と胃の境目)が緩んでいるのがわかると思います。この状況では、胃液が食道に逆流してしまい、胸焼けやむせ込みがおこります。一方、右側の写真は、ARMSによる治療後ですが、噴門はキュッとしまり、逆流が改善するであろうことが予測されます。

・ 人工物を入れたりはしませんので、長期的にも安全な治療法といえます。
・ 一過性の狭窄については、57%の症例では拡張は必要でなく、30%の症例が1-2回の内視鏡的拡張(一過性の狭窄)をうけられています。13%の方が3回以上の拡張が必要でしたが、難治性狭窄の患者さんはおられませんでした。とくに最新の粘膜切除の範囲の工夫(チョウチョ型の粘膜の治療)を開始してからは、一過性の狭窄で拡張をおこなったかたは数名のみであり、難治性狭窄の方はおられませんでした。
・ この治療法は昭和大学横浜市北部病院、昭和大学江東豊洲病院の倫理委員会の承認を得ております。保険診療ではなく、自費診療ですが、患者さんの負担をできるだけ少なくする配慮をおこなっています。詳細は担当医にご相談ください。
・ 現在までに多数の患者さんに施行しております。2018年12月現在で109名です。施行した患者さまの大半で症状の改善をしています。
・ 治療後、一番長い方は10年近いの経過を追っており、その方では治療効果は継続しています。
・ 重大な偶発症はなく、安全な治療と考えております。
・ ARMSでは噴門粘膜の亜全周切除を行いますが、その部分の難治性狭窄のために長期にわたりの拡張術を要した方はありません。
・ この治療法(ARMS)は、米国の消化器内視鏡学会、日本内視鏡外科学会などで発表するとともに、国際誌に英文論文として報告されています。
・ 治療効果につきましては、約半数の患者さまで、胃酸を抑える薬の服用を中止できておりますし、残りの半分の方も胃酸を抑える薬の継続はされていますが、症状の改善がみられておられる方がほとんどです。
・ 一部の患者さんにおいては、ARMSの治療効果が不十分であり、薬の継続や追加治療が必要であるかたが、おられます。
・ 逆流防止効果は、外科手術のNissenやToupetに較べたら、弱い治療法です。とくに滑脱ヘルニア(胃の噴門が、縦隔の方に移動しているかた)がある患者さんにおいては、ARMSでは効果が上がらない場合があります。
・ 最新の知見といたしまして、以下のことがあります。ARMSは噴門の“粘膜を切除”して、緩んだ噴門をひき締めようとする治療方法ですが、”粘膜切除”をおこなわなくても、“粘膜焼却”をおこなうことにより、“粘膜切除”の場合と同等の治療効果があがることがわかってきております。これをARMA(Antireflux mucosal ablation)と称しております。粘膜焼却の範囲は、ARMSでの粘膜切除の範囲と同一です。
・ どのような治療法(薬、内視鏡治療、外科手術)でも、うまく治療効果が上がらない場合はあり得ます。その場合も、症状が少しでも緩和するように総合的に対応しております。

文献
1. Satodate H, Inoue H et al. Circumferential EMR of carcinoma arising in Barrett’s esophagus: case report. Gastrointest Endosc 2003;58:288-92
2. Satodate H, Inoue H et al. Squamous reepithelialization after circumferential mucosal resection of superficial carcinoma arising in Barrett's esophagus. Endoscopy 2004; 36: 907-12
3. Inoue H, Ito H, Ikeda H et al. Anti-reflux mucosectomy for gastroesophageal reflux disease in the absence of hiatus hernia: a pilot study. Ann Gastroenterol 2014; 27: 346-51

改訂2019年3月3日

                昭和大学江東豊洲病院 消化器センター
                教授・センター長   井上 晴洋
                問い合わせ(電子メールアドレス):haruinoue777@yahoo.co.jp